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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)559号 判決

原告(選定当事者) 佐々木義信

右訴訟代理人弁護士 松村弥四郎

被告 小室優

右訴訟代理人弁護士 中島清

同 須藤正彦

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

1  被告は原告に対し、別紙請求金額表第四欄記載の各金員、及びその内金である同表第一欄記載の各金員に対する昭和四七年二月一九日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告は、青木友吉とともに昭和四五年四月二〇日土木建築業を目的として設立された日本総合リフォーム株式会社(以下、訴外会社という。)の設立以来の代表取締役である。

仮に後記被告主張のとおり被告が昭和四五年一一月二〇日代表取締役を辞任したとしても、なお訴外会社の取締役の地位にあった。

(二)  原告及び選定者ら(以下、原告らという。)は、訴外会社に対する別紙手形、小切手目録記載の各手形、小切手(以下、本件手形小切手という。)債権を含む別紙債権表第一欄記載の各債権を取得し、昭和四六年六月二日訴外会社が不渡手形を出して倒産した後、その残余財産の処分金から同表第二欄記載の各金額の支払を受けたが、なお同表第三欄記載の各債権(以下、本件各債権という。)を有している。

(三)  訴外会社代表取締役青木友吉は、訴外会社の昭和四五年四月二〇日から同四六年三月三一日までの間の第一期事業年度における営業利益が僅かに金八〇六、五二一円であるうえ、手形、小切手決済資金を調達する見込が全くなかったにもかゝわらず、同年四月から同年六月までの間に総額金九〇二万円に上る本件手形、小切手を振出した。そして、本件手形、小切手はいずれも不渡となり、訴外会社が前記のとおり倒産したゝめ、本件手形、小切手の所持人たる原告、選定者松沢政儀、同有限会社木村工務店、同大溝武、同新都市緑化株式会社は、その所持する本件手形、小切手各債権を回収することが不能となり、各債権額相当の損害を蒙った。

(四)  本件各債権は、訴外会社が倒産した結果いずれも回収不能となり、原告らは各債権額相当の損害を蒙ったが、訴外会社の倒産はその代表取締役青木友吉の放漫経営の結果である。

すなわち、訴外会社は施主から土木建築工事の設計、施工を請負い、これを原告らに下請させ、右請負代金と下請代金との差額を利益として収受するという営業形態をとっていたものであるが、青木は、施主からの受注増をはかる余り、別紙請負明細表記載のとおり、下請代金額を下廻る不当に廉価な代金額で施主より受注を受け、かゝる損失の生じることが明白な放漫経営を継続した結果、訴外会社を倒産に導いたのである。

(五)  被告は、訴外会社の代表取締役または取締役として、訴外会社の業務に関与し、前記青木の支払見込のない手形、小切手の振出及び放漫経営を知悉しながら、これを放置してこれを防止する何らの措置をとらなかったものであり、故意により代表取締役または取締役としての任務を懈怠したものというべきである。

仮に被告が訴外会社の業務に関与せず、前記青木の任務違反の行為を知らなかったとしても、被告は、訴外会社の業務の一切を青木に任せて、同人に対する監視義務を怠り、その結果同人の前記のような任務懈怠を看過したものであり、そのこと自体、重大な過失により代表取締役または取締役としての任務を懈怠したものというべきである。

したがって、被告は、商法二六六条の三により、原告らに対し前記回収不能によって生じた損害を賠償すべき義務がある。

(六)  仮に被告がその主張のとおり昭和四六年一一月二〇日頃訴外会社の代表取締役、取締役を辞任したとしても、右日時頃は訴外会社にとってその経営上重要な時期にあたり、被告がその頃右辞任をすることは訴外会社との委任契約に違反するものというべきところ、被告は、右契約に違反してその頃辞任して青木の前記任務懈怠を放置し、そのため、訴外会社を倒産に至らしめ、甚大な損害を与えたものである。

原告らは、本件各債権に基づき、訴外会社の被告に対する商法二六六条に基づく損害賠償請求権を右各債権額の限度で代位行使して、被告に対し本件各債権と同額の損害金の支払を求める。

(七)  原告は本件訴訟を弁護士松村弥四郎に委任し、手続料として金二〇万円を支払い、成功報酬として請求金額の約一割にあたる金一四〇万円を支払う約束をしており、右弁護士費用は原告及び選定者らにおいてその本件各債権額に按分して負担することになっており、右のとおり計算すると、原告及び選定者らが負担する弁護士費用額は別紙請求金額表第三欄記載の各金額となる。

(八)  よって、原告は被告に対し、前記本件各債権額に相当する損害金(別紙請求金額表第二欄記載)及び右弁護士費用額(同表第三欄記載を合計した同表第四欄記載の各金員及び右同表第二欄記載の各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和四七年二月一九日より支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の主張

(本案前の主張)

原告は選定当事者としての適格がない。すなわち選定者間に民事訴訟法四七条一項にいう「共同ノ利益」があるというためには、選定者それぞれの攻撃防禦方法がその主要部分において共通することを必要とするものと解すべきところ、本件において各選定者と訴外会社との各取引行為、その他各選定者との損害発生原因となる各事実は、時期、場所、態様等を異にし、これに対する被告の故意、過失も個別的に検討することが必要であり、各選定者についての攻撃防禦方法は、その主要な部分において共通するとはいえないので、前記「共同ノ利益」があるものということができず、民事訴訟法四七条一項の要件を欠くからである。

(本案についての主張)

(一) 請求原因(一)のうち、青木友吉が昭和四五年四月二〇日土木建築業を目的として設立された訴外会社の設立以来の代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。

被告は、訴外会社の設立にあたり青木友吉の懇請により訴外会社の名目上の代表取締役に就任することを承諾し、その登記がなされたが(もっとも、右就任については、株主総会、取締役会の決議による適法な選任手続がとられていない。)、昭和四五年一一月二〇日代表取締役、取締役を辞任し、本件手形、小切手振出及び赤字受注等青木友吉の任務懈怠があったと原告が主張する頃には、名実ともに訴外会社の代表取締役でも取締役でもなかった。被告は、右辞任後も訴外会社の業務に若干の関与をなしたが、右は取締役という地位を離れた好意による訴外会社に対する応援行為であるにすぎない。

(二) 同(二)、(三)は不知。

(三) 同(四)のうち、訴外会社の本来の営業形態についての事実は認めるが、その余は不知。

仮に青木友吉が原告主張のような赤字受注をなしたとしても、事業を遂行するためには、将来の大きな利益、市場開拓確保維持のため一時的に赤字受注を行う必要のある場合は多いのであり、原告主張の僅か五件の赤字受注の事実のみをもって、青木の経営を防漫経営であると断定することはできない。

また、原告主張のような青木の任務懈怠行為と原告らの損害との間には相当因果関係がない。

(四) 同(五)は否認する。すなわち、

1 一般に代表取締役は、他の代表取締役を監視する義務を有するものではない。

2 被告は、昭和四五年一一月二〇日前記のとおり訴外会社の代表取締役、取締役を辞任するまでは、訴外会社の経理、労務、現場作業、総務等業務全般にわたって関与していたが、その間においては青木に原告主張の支払見込のない手形、小切手の振出、放漫経営の行為はなかったから被告に同人に対する監視義務違反の責を問われる筋合はない。

3 被告は、前記のとおり代表取締役、取締役を辞任した後は、代表取締役、取締役としての責任が消滅したものであるが、右辞任の変更登記が未了であったことは事実であるから、仮に右辞任をもって原告らに対抗できないものとしても、被告は、右辞任に際して、青木から、被告が代表取締役を辞任したことを確認し、その変更登記を申請中である旨記載した文書を受領したので、早晩右変更登記がなされることを信じて疑わなかったのであり、かく信ずるにつき過失はなかったというべきである。

かゝる被告に対し、青木の任務懈怠を予見し、これを防止するための手段を講ずることの義務を課することは、極めて酷であり、被告において青木の任務懈怠を看過したとしても、過失があるとはいえない。まして商法二六六条の三にいう重過失があるとはいえない。

(五) 同(六)は否認する。

(六) 同(七)のうち、原告が本訴の提起を弁護士松村弥四郎に委任したことは認めるが、その余は不知。

三  被告の主張に対する原告の主張

被告が訴外会社の代表取締役、取締役を辞任したとの被告の主張は否認する。

仮に被告が昭和四五年一一月二〇日代表取締役の辞任届を提出したとしても、右辞任の変更登記がなされていないから、右辞任をもって原告らに対抗できず、また被告は右辞任届提出後も事実上代表取締役としての業務を執行していたから、商法二六六条の三に基づく責任を免れることができない。

第三証拠≪省略≫

理由

一  被告の本案前の主張について

本件訴訟は、いずれも訴外会社の債権者である原告及び選定者らが、訴外会社の代表取締役である被告に対し、その任務懈怠行為を理由として、商法二六六条の三に基づき債権回収不能による損害等の賠償を訴求するものであって、原告及び選定者ら間には、主たる攻撃防禦方法を共通にし、民事訴訟法四七条にいう「共同ノ利益」があるものと解せられる。したがって、原告には選定当事者としての当事者適格がある。

二  本案について

(一)  訴外会社が昭和四五年四月二〇日土木建築業を目的として設立され、青木友吉がその成立以来の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。

(二)  まず、被告の訴外会社における地位の点について判断するに、≪証拠省略≫によると、被告は、訴外会社の設立にあたり青木友吉の懇請をうけて訴外会社の代表取締役に就任することを承諾し、取締役及び代表取締役就任の登記がなされたことを認めることができる。もっとも、右被告の取締役、代表取締役就任につき創立総会、株主総会、取締役会における正規の選任手続がなされたことを認めるに足りる証拠がなく、かえって≪証拠省略≫によれば、右手続はとられていないことが窺われるので、被告は本来訴外会社の取締役、代表取締役としての地位にあったものということができず、前記取締役、代表取締役の就任登記は不実の登記であるといわねばならないが、前記認定のとおり、被告は右就任登記に先立ち代表取締役に就任することを承諾していたものであるから、被告は、右不実の登記の出現に成功したものというべく、商法一四条の類推適用により、右登記の不実であること、すなわち訴外会社の取締役、代表取締役でないことをもって、善意の第三者に対抗することができないものといわねばならない。

ところで、≪証拠省略≫によると、訴外会社は、青木が経営の実権を掌握し顧客(施主)や下請人との契約の締結、金融取引等の対外的業務を専行し、被告は、女子事務員に記帳方法を指導したり建築現場の監督に従事したりしていたが、昭和四五年一一月頃青木の経営振りに不満を抱くようになり、同月二〇日頃青木に対し代表取締役を辞任する旨の意思表示をなし、右辞任の変更登記手続をなしてくれるよう同人に依頼したが、同人は右登記手続を放置し、現在に至るも右変更登記がなされていないこと、被告は、右代表取締役辞任の意思表示をなした後、一、二か月間は訴外会社の請負工事の現場監督をなす等若干訴外会社の業務に関与していたが、外観上も代表取締役としての職務といえるような義務を行うことはなかったことを認めることができる。右事実によれば、被告は昭和四五年一一月二〇日訴外会社の代表取締役を辞任したものというべきである。原告らは右辞任の変更登記がなされていないから右辞任をもって原告らに対抗できないと主張するが、右認定のような事実関係においては、被告の商法二六六条の三の規定に基づく責任に関し、商法一二条を適用する余地はなく、右原告らの主張は採用できない。

しかし、被告は、昭和四五年一一月二〇日訴外会社の代表取締役を辞任する意思表示をしたが、前記のとおりその後も訴外会社の業務に関与していたという事実を考慮すれば、右意思表示をもって直ちに取締役までも辞任する意思表示であると解することはできず、他に被告が取締役をも辞任したことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告は、商法二六六条の三の適用に関し、善意の第三者に対して、昭和四五年一一月二〇日までは訴外会社の代表取締役としての、同日以降は取締役としての責任を負うべき地位にあるものというべきである。

(三)  ≪証拠省略≫によれば、原告は訴外会社から別紙手形、小切手目録(一)2、6、7の各手形の振出交付を受け、また訴外会社より石川昭子が振出交付を受けた同(一)8の手形の裏書譲渡を受け、選定者松沢政儀は同(一)9、10の各手形及び同(二)1の小切手の、同有限会社木村工務店は同(一)11ないし13の手形の、同大溝武は同(一)14、15の手形の、同新都市緑化株式会社は同(二)2、3の小切手の、各振出を訴外会社から受け、右各手形、小切手を所持するに至ったこと、選定者松沢政儀、同株式会社飯塚工務店、同有限会社木村工務店、同新都市緑化株式会社、同大溝武、同東立設備工業こと豊川菊五郎、同東京安全産業株式会社、同有限会社真神電機工業、同株式会社毎日案内広告社、同西村塗装工業所こと西村賢五郎、同信越ストアサービス株式会社、同新東京会館こと佐々木寿、同九長工務店こと長邦雄が、訴外会社との取引により別紙債権表第一欄2、4ないし6、8、12、13、15ないし20記載のとおりの債権を取得し、原告が金四、六四〇、〇〇〇円の、選定者鳳商事こと飯塚宏が金二七九、六二一円の、同日の丸自動車株式会社が金一二三、〇〇〇円の、ミツワ石油株式会社が金一一五、一五六円の各債権を、訴外会社との取引によって取得したこと(たゞし右原告、選定者松沢政儀、同有限会社木村工務店、同大溝武、同新都市緑化株式会社の各債権は、前記認定の手形、小切手金各債権を含むものである。)、訴外会社が、その設立時より昭和四六年三月三一日までの第一期事業年度においては金二三二、八七〇円の当期利益を計上したが、何時の頃からか資金操りに窺するようになり、同年六月二日不渡手形を出して倒産したこと、そのため、前記原告及び選定者らは前記訴外会社に対する各債権を回収することが不可能となり、各債権額相当の損害(以下本件損害という。)を蒙ったことを認めることができる。

請求原因(二)の事実中、右認定にかゝる事実以外の事実は、これを認めるに充分な証拠がない。

(四)  そこで、右原告及び選定者らが債権回収不能によって蒙った損害につき、被告が訴外会社の代表取締役または取締役として商法二六六条の三に基づく責任を負うか否かについて判断する。

1  ≪証拠省略≫によると、被告は、訴外会社の設立以来、前記認定のとおり若干訴外会社の業務に関与していたが、対外的営業活動等代表取締役としての業務については青木友吉に任せきりにしてその業務執行に充分意を用いず、代表取締役を辞任し取締役となった昭和四五年一一月二〇日以降においても、同人の業務執行に対して監視し、これが適正に行なわれるよう意を用いてはいなかったことが認められ、右事実によれば、被告は、訴外会社の代表取締役、取締役としての任務を故意に懈怠していたものということができる。

そこで、右被告の任務懈怠と原告及び選定者らの本件損害との間に相当因果関係があるか否かにつき、以下考察する。

2  まず、前記訴外会社の倒産につき、直接業務を担当した代表取締役青木友吉が任務懈怠による責任を負うべきかを検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、訴外会社の代表取締役青木友吉が昭和四五年一〇月頃から同年一一月頃の間において別紙請負明細表記載のとおり請負った建築、造園工事六件につき、下請人に支払うべき下請代金が請負代金を上廻り、その結果訴外会社は右工事に際し合計金四、六八三、七〇三円の損失を蒙ったことを認めることができる。しかし、右のようないわゆる赤字工事による損失につき、それがいかなる事由によって生じたか、就中それが青木友吉において会社経営上容認しなければならない事由もないのに請負代金を不当に廉価にとりきめる等、同人の不始末によるものであることを認めるに充分な証拠はなく、訴外会社に右赤字工事による損失を生ぜしめたというだけでは、いまだ青木友吉に故意または重大な過失による任務懈怠の行為があったものと断じることができない。

そればかりではなく、≪証拠省略≫によると、訴外会社の倒産の原因としては、前記赤字工事による損失のほかに従業員の不正や債権回収不能等の事由が競合していたことが窺われるところ、訴外会社の設立以来の取扱い工事量のうちに右赤字工事量が占める割合についてこれを明らかにしうる証拠がなく、右赤字工事による損失が訴外会社の倒産とどの程度重要な関連を有するかを明らかにすることができない。したがって、前記赤字工事に関して青木友吉の任務懈怠の行為があるとしても、右行為と訴外会社の倒産による本件損害との間における相当因果関係を認めるに足りないといわねばならない。

そして、前記赤字工事による損失以外の倒産原因については、その具体的事情を明らかにしうる証拠がなく、この点についても青木の故意または重大な過失による任務懈怠行為を認めることができない。

以上のとおり、訴外会社を倒産させるに至ったことにつき、直接業務を担当した青木友吉に任務懈怠に基づく商法二六六条の三の責任を肯認できないので業務を担当しなかった被告に対して同条の責任を負わせることはできず、前記被告の代表取締役、取締役としての任務懈怠は、青木が訴外会社を倒産に至らしめたことによって生じた本件損害と相当因果関係があるものということができない。

3  次に、前記認定にかゝる手形、小切手の振出に関する被告の責任について判断するに、前掲証拠によれば、前記原告及び選定者らが取得した手形、小切手は、いずれも青木友吉が訴外会社の代表取締役として振出したものであり、振出日を確認することのできない別紙手形、小切手目録(一)11、12、13の手形を除き、いずれも昭和四六年一二月から同年六月四日の間に振出されたものと認められるが、訴外会社が何時からいかなる事情で資金繰りに窺するに至り、またこれを打開する可能性を失ったかを明らかにしうる証拠がなく、後記倒産の直前直後に振出された小切手を除くその余の手形については、その振出当時において訴外会社に支払の見込がなかったものと認めることができず、したがって、右手形振出に関し青木友吉に故意または重大な過失による任務懈怠があったものと認めることができない。

また前記目録(二)3の小切手は倒産後に、同(二)1、2の各小切手は倒産の直前に振出されたものであって、右倒産の事実からして支払見込がないのに振出されたものと推定することができるけれども、≪証拠省略≫によれば、前記目録(二)1、2の小切手は訴外会社の選定者松沢政儀に対する、同(二)3の小切手は同新都市緑化株式会社に対する各下請代金の支払のために振出されたものであり、右選定者らは右各小切手の振出交付を受けなくとも、訴外会社の倒産のため下請代金債権の回収不能に陥り各小切手金額と同額の損害を蒙ったものと推認され、したがって、右各小切手の振出は右選定者らの損害と因果関係を有しないものというべきところ、右代金債権の発生原因となった下請契約の締結につき青木友吉に故意または重大な過失による職務懈怠があったことを認めるに足りる証拠がない。

したがって、原告ら主張の手形、小切手の振出についても青木友吉に商法二六六条の三に基づく責任を認めることができない。

のみならず、訴外会社が何時から資金繰りに窮する等青木友吉の経営に是正を要し、何らかの対策を講じる必要が生じるようになったかを明らかにできる証拠がないので、倒産前の短期間のうちに急速に訴外会社の経営が悪化したという可能性も否定できないところであるから、仮に被告が訴外会社の取締役として青木友吉の経営遂行に対し監視義務を怠らなかったとしても、果して前記のごとき手形、小切手の振出を防止しうるに適切な措置をとりえたかどうか極めて疑わしいといわねばならない。以上のとおり、前記手形、小切手の振出に関しても、結局、被告の前記任務懈怠と本件損害との間に相当因果関係を認めることができないといわねばならない。

(五)  以上の次第であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒田直行)

〈以下省略〉

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